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今日は、前回に引き続き建設業の2024年問題と人事評価制度について考えてみます。
2024年問題とは、残業時間の上限規制であることはご存じだと思います。
前回の「建設業の2024年問題と未経験者採用と人事評価制度」では、
未経験・経験の浅い採用人材の力量を向上させられる建設業者さんこそが、人手不足解消を実現できることを説明しました。
今回は、“未経験・経験の浅い人材”ではなく、即戦力人材(経験豊富な人材)を採用するにあたり、人事評価制度をどのように活かしていくのかを考えてみたいと思います。
「人事評価制度で、即戦力人材を活かすことが出来るのですか?」
「即戦力人材の採用と人事評価制度は関係あるのですか?」
と質問されそうですが、それが、
即戦力人材と人事評価制度の関係は大アリなのです。
即戦力人材(経験豊富な人材)を如何に採用して、如何に活用していくのかが、2024年問題の本質である人手不足・人材不足解消のためには必要なのです。
建設業に限らず、即戦力人材・エキスパート人材である求職者が求める会社とは、
「如何に自らの力量を発揮でき、それを認めてもらえるのか」
ということです。
この考え方には、二つの視点があります。
・その1:自らの力量を発揮するステージが用意されているか
・その2:発揮した力量が認められるのか
・その3:保有している力量を認めてもらえるのか
・その4:発揮した力量と保有している力量が具体的にどのように給与に反映させるのか
一つ目の視点、「その1:自らの力量を発揮するステージが用意されているのか」から視ていきましょう。
“自らの力量を発揮するステージが用意されているか”とは、自社サイトの求人ページや求人広告等において、
「当社はあなたの経験・力量が十分に活かせますよ」
ということが求職者に伝えなくてはならないのです。
そして、その「根拠」もですね。
例えば、「一級土木施工管理技士」の資格保持者で、経験が十分にある即戦力人材に響く内容として、
・当社では公共元受け工事(請負金額○○万円)の物件を常に抱えています
・監理技術者のあなただから活躍の場があるのです
・発注元の○○県の評定点数で表彰を狙っていただきたい
など。
公共元受け物件を豊富に受注できている根拠として、自社サイトの施工事例へのリンクや、落札情報へリンクを貼ってもいいでしょう。
また、高評定点数を獲得し、表彰を狙う件については、実際に表彰が行われた実績を記載してもいいですし、表彰実績へのリンクを貼っても良いでしょう。
要は、“自らの力量を発揮するステージが用意されているか”については、「絵に描いた餅」の印象を持たれると良くないので、必ず、その「根拠」となる記載が必要でしょう。
二つ目の視点は、「その2:発揮した力量が認められるのか」でしたね。
これについては、公正かつ客観的な人事評価制度が存在していることを伝えましょう。
先日の建設業において未経験者・経験の浅い人材採用においては、人事評価制度を人材育成のツールとして紹介しましたが、今回のブログのテーマである即戦力人材(経験豊富な人材)の採用においては、その人材の力量や成果が測れる人事評価制度を自社が運用していることを伝えなくてはならないのです。
そして、その人事評価制度の評価結果によって、昇給(給料・賞与が上がること)、昇格(役職が上がること)、昇級(職能資格等級が上がること)が実現することも伝える必要があります。
一般的な人事評価制度の場合、
・評価基準が無い(若しくは非常にあいまい)
・誰が評価するのかで評価結果が異なる
・ナニが出来れば高評価がもらえるのか不明
などの理由から、一般的に人事評価制度に対する信頼性が低く、建設業においても例外ではありません。
そのため、建設業者で働く人材にとって、人事評価制度とは、
・公平性や客観性に欠ける制度
・イメージが良くない
・自分たちを順位付けするための仕組み
などというものでしょう。
あなたの会社は、そのようないわゆる欠陥的な人事評価制度ではなく、だれが評価しても(たとえ小学生であっても)評価にブレが生じない非常に明確な人事評価制度を導入・運用していることを伝えなくてはならないのです。
場合によっては、工事部の「人事評価表」の実物を見本として自社サイトに公開しても良いと思います。
もちろん、「人事評価表」全部ではなくても、一部の評価項目と評価基準の公開でも構わないでしょう。
三つ目の視点は、「保有している力量を認めてもらえるのか」です。
発揮したことの評価は、人事評価制度で認めてあげればよいのですが、そもそも、保有している能力・技量・知識・資格等も即戦力採用においては、適切に評価することが必要です。
そして、なによりも、この
「当社は、あなたの持っている能力・技量・知識・経験等を入社時に適切に評価します。その仕組みとして○○○○○○〇があります」
と、根拠である “仕組み” までも記載するのです。
この “保有している力量” を認めてあげるしくみも人事評価制度なのです。
このことは、建設業に限らず、すべての業種において、即戦力人材を中途採用を実現する際に必要なことなのです。
因みにこの “保有している力量” を認めてあげるしくみとは、「職能資格等級制度」なのです。
「職能資格等級制度」も人事評価制度の一部なのです。
以上のことから、建設業において、人事評価制度の一部である「職能資格等級制度」は必須の仕組みであるといえます。また、「職能資格等級制度」は、会社側から人材に伝える「要求力量のハードル」を明確にする仕組みでもありますから重要と言えます。
建設業の場合、人材が力量(能力・技量・知識・資格等)を向上していくことが非常に重要であり、その結果、
・工事にエントリーできる・受注可能となる
・経審(経営事項審査)のP点(総合評定値)が向上
・総合評価の持ち点が向上(発注者により異なる)
・ランク格付けの点数が向上(発注者により異なる)
・専任技術者となれる人材を確保
・配置技術者となれる人材を確保
など、建設業者さんにとって、良いことづくめなのです。
このことからも建設業においては、人材育成が非常に重要であり、そのための仕組みである人事評価制度の導入・運用が必要となります。ただ、人材育成に繋がらない一般的な人事評価制度では意味がないことを付け加えておきます。
四つ目の視点は、「発揮した力量と保有している力量が具体的にどのように給与に反映させるのか」です。
即戦力中途採用候補者にとって、
・自らが発揮した力量・成果を認めてもらえ、それが、給与に反映させる
・自ら保有している力量(能力・技量・知識・資格等)が、給与に反映される
ということは、求職活動の中で非常に魅力的なのです。
但し、単に「あなたの発揮した力量・成果を給与に反映させます」や「あなたの保有している力量を給与に反映させます」と伝えたところで、不完全ですし、伝わりません。場合によっては、胡散臭さを感じ取られてしまいます。
では、どうするのか?ここでも根拠の提示が必要です。その根拠とは・・・
賃金制度 です。
「当社には、あなたの保有力量と発揮した成果を明確に給与に反映させる賃金制度があります」と伝えるのです。
そして可能な限り、どのような賃金制度なのかを明示しましょう。
ヒトは、一見魅力的なフレーズや文言(待遇)でも、その根拠が示されない場合や、不明確な場合は、猜疑心が働きます。とくに魅力あるフレーズや文言(待遇)であればあるほどです(「ほんとかな?」と)。
建設業の場合、他業種と比較して、福利厚生がしっかりしていないイメージがありますので、余計に「建設業として万全の福利厚生制度があり、客観的・公平な人事評価制度も支給根拠の明確な賃金制度もありますよ」と伝えるべきなのです。
いかがですか?
建設業者さんとして、いや、建設業者に限らず、すべてにおいて、自社の「人事評価表」「職能資格等級表」「賃金制度」を公開している企業さんなどあるのでしょうか?もし、有ったとしても非常に少数だと思います。
そこで、あなたの会社は、即戦力人材(経験豊富な人材)が活躍できる根拠として「人事評価表」「職能資格等級表」「賃金制度」自体や、一部であっても評価項目と評価基準、職能資格等級の内容、支給する手当等を敢えて公開するのです。
この手法は、即戦力人材(経験豊富な人材)の採用に限らず、未経験者・経験の浅い人材にとっても、非常に好感が持てる内容となりますので、ぜひ、検討してみてください。
(もちろん、本人の転職を不安視するご両親は配偶者の方にとってもです)
ただ、その前に、そのような「評価基準が明確で人材育成につながる人事評価制度」「要求力量を具体的に示した職能資格等級制度」「支給根拠の明確な賃金制度」の導入が必要になることは言うまでもありません。
建設業者さんとして、人材の採用が出来て行けば、2024年問題など気にしなくても良いのではないですか。
今回のブログでは、建設業者さんが即戦力人材(経験豊富な人材)を採用することをテーマに説明しましたが、未経験者・経験の浅い人材を採用することの着眼点については、一つ前のブログで説明済みですので、そちらをご参照ください。
建設業における未経験採用についてのブログはコチラ
「理想的な人事評価制度」についてはコチラ
「理想的な人事評価制度3時間勉強会」についてはコチラ
「職能資格等級制度」についてはコチラ
執筆者 山本昌幸プロフィール:
人事制度(人事評価制度、賃金制度)指導歴28年超の専門家、特定社会保険労務士。
商業出版書籍に「CCUS(建設キャリアアップシステム)/CPDの活用で建設業の人材不足解消と育成はできる!」(中央経済社)、「人事評価制度が50分で理解でき、1日で完成する本 (忙しい社長のためのビジネス絵本) 」(同友館)、「今日作って明日から使う中小企業のためのカンタンすぎる人事評価制度」(中央経済社)等がある。
20年以上前から愛知建設業会館(愛知県建設業協会)7階に本社事務所を構え、中小建設業への指導多数。