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人事評価制度において、評価者訓練(評価者研修)は当然必要と思っている方が多いでしょうが、理想的な人事評価制度は、評価者訓練(評価者研修)はいらないのです。
皆さんは、「人事評価制度」と聴いて、実施すべきこととして「評価者訓練(評価者研修)」を思い浮かべる方も多いでしょう。
確かに人事評価制度は、人材の評価を行い、その評価結果が昇給、昇格、昇級、賞与への反映などの処遇に影響するのですから、評価者の責任は重大であり、その評価者に一定の力量を保有してもらうための評価者訓練(評価者研修)を実施することは当たり前と思われていることでしょう。
ただ、なぜ、評価者訓練(評価者研修)の実施が必要なのでしょうか?
それは、人事評価制度が機能しない原因にあると思われます。
そう、すべての問題に原因があり、すべての事象に根拠がありましたね。
その人事評価制度が機能しない原因とはどのようなことが考えられるのか?
私自身、過去30年近く、1000社以上の様々な業種、業態、規模の人事評価制度を確認してきて、自身も人事評価制度の策定を行ってきました。その中で人事評価制度が機能しない重大な原因として以下が挙げさせていただきます。
【人事評価制度が機能しない重大な原因】
①人事評価制度の仕組みが複雑であること
[対策]:評価者訓練(評価者研修)の実施
②評価者により評価結果にばらつきが出てしまう
[対策]:360度評価・多面評価の実施、評価者訓練(評価者研修)の実施
③評価結果に様々なエラーが出てしまう:中心化傾向、寛大化傾向、厳格化傾向、期末化傾向など
[対策]:中間評価の実施、評価者訓練(評価者研修)の実施
では、一つ一つ見ていきましょう。
①人事評価制度の仕組みが複雑であること
の[対策]として「評価者訓練(評価者研修)」があります。
但し、この場合の「評価者訓練(評価者研修)」は、評価方法や評価者の力量向上というよりも、人事評価制度の仕組み自体を理解するための「評価者訓練(評価者研修)」といえます。
とにかく、一般的な既存の人事評価制度は、仕組みが複雑であり、理解することが非常に困難です。
私自身、人事制度・人事評価制度に関する商業出版書籍を4,5冊執筆しており、指導歴も30年近くありますので、人事評価制度の専門家であると自負はしているのですが、その専門家である私が様々な企業の人事評価制度を拝見しても、「非常に複雑だなぁ、総務の担当者は理解しているのかなぁ。総務の担当者さえ理解しにくいほど複雑な人事評価制度なのだから、評価される側従の業員にとって理解は無理だろうなぁ」と感じてしまうのです。
そのような複雑な人事評価制度だからこそ、評価者・管理者に人事評価制度を理解して頂くための「評価者訓練(評価者研修)」が必要になるのでしょう。
理想的な人事評価制度であれば、わざわざ何時間、何日もかけて「評価者訓練(評価者研修)」を実施しなくても、「人事評価制度全社員説明会」として30分も説明すれば、理想的な人事評価制度の内容を理解してくれるでしょう。もちろん、「人事評価制度マニュアル」「人事評価手順書」等も不要です。
②評価者により評価結果にばらつきが出てしまう
の[対策]として、「360度評価・多面評価の実施、評価者訓練(評価者研修)の実施」があります。
評価者による評価結果のばらつきを防ぐための[対策]として「360度評価(被評価者を上司だけが評価するのではなく、同僚や部下も評価すること)」や「多面評価」を実施すること自体、非常に疑問に感じます。
要は、「上司として部下である被評価者の評価に確信が持てないので“様々な角度”“様々な眼”から評価しましょう」ということなのですら、その人事評価制度自体に問題があるということなのです。要は、評価エラーという“罪”を「上司だけではなく、皆で担いましょう」という感じでしょうか。
理想的な人事評価制度は、そもそも評価のばらつきが生じないため、360度評価や多面評価は不要なのです。天然痘ウィルスが根絶されたことにより、天然痘ワクチンが不要(★)になるようなことなのです(評価のばらつきがない人事評価制度により、360度評価・多面評価は不要になる)
★:天然痘ワクチンは研究用に保管されています。
評価者による評価結果のばらつきを防ぐ[対策]として、「評価者訓練(評価者研修)」があります。
「評価者訓練(評価者研修)」により、評価のばらつきを抑えることは多少可能ですが、そもそも、評価基準が無かったり、曖昧だったりする人事評価制度なのですから、評価のばらつきを多少抑えることが可能であっても、それは僅かなエラー防止に留まるでしょう。
③評価結果に様々なエラーが出てしまう:中心化傾向、寛大化傾向、厳格化傾向、期末化傾向など
の[対策]として、「中間評価の実施、評価者訓練(評価者研修)の実施」があります。
評価者によるエラーを説明しましょう。
・中心化傾向:評価結果が真ん中(ふつう)の評価に集中してしまうこと
・寛大化傾向:評価結果が全般的に甘くなってしまうこと
・厳格化傾向:評価結果が全般的に厳しくなってしまうこと
・期末化傾向:被評価者の期末に発生した事象を評価対象としてしまうこと
中心化傾向、寛大化傾向、厳格化傾向の原因は、明確な評価基準が無かったり、曖昧だったりすることが原因です。そのため、「評価者訓練(評価者研修)」の実施では防ぐことはできないのです。
期末化傾向を防ぐためには、評価期間の中間や三か月に一度の評価を実施することによりエラーを防ぐことが可能でしょう。しかし、一般的な既存の人事評価制度は、とにかく仕組みが複雑で、年に1度(期末)の評価であっても、評価者にとって相当負担であり、その相当負担な評価が年1回ではなく、年2回や年4回に増えるのは、複雑な仕組みの人事評価制度であれば現実的ではないかもしれません。
以上、【人事評価制度が機能しない重大な原因】である、
①人事評価制度の仕組みが複雑であること
②評価者により評価結果にばらつきが出てしまう
③評価結果に様々なエラーが出てしまう:中心化傾向、寛大化傾向、厳格化傾向、期末化傾向など
を防止するための施策・対策として「評価者訓練(評価者研修)」では、ダメなのです。
だからこそ、理想的な人事評価制度は、次のような仕組みであるべきなのです。
①シンプルでだれでも理解でき、運用できる仕組みであること
②評価結果にばらつきやエラーが出ない「評価項目」「評価基準」が明確であること
そこで、非常に重要な提言。
理想的な人事評価制度は、
フールプルーフであること
なのです。
フールプルーフとは、主に製造業で用いられる概念であり、「そもそも誤った使い方が出来ないように配慮する設計手法」であり、「誰でも簡単に使用できる」ということなのです。
理想的な人事評価制度は、このフールプルーフが必要であり、そもそも、人事評価制度のエラーが発生しないため、「評価者訓練(評価者研修)」の実施が不要なのです。また、仮に部下のAさんに対して、えこひいきして、高評価を与えようとしてもそれが出来ない人事評価制度のことなのです(意図した不適切行動というヒューマンエラーも防止できる)。
いかがでしょうか。
「評価者訓練(評価者研修)」が不要な理想的な人事評価制度を策定・導入・運用してみませんか。
最後までお読みいただきありがとうございます。
執筆者 山本昌幸プロフィール:
人事制度(人事評価制度、賃金制度)指導歴28年超の専門家、特定社会保険労務士。
商業出版書籍に「人事評価制度が50分で理解でき、1日で完成する本 (忙しい社長のためのビジネス絵本) 」(同友館)、「今日作って明日から使う中小企業のためのカンタンすぎる人事評価制度」(中央経済社)、「従業員のための人事評価・社長のための人材育成」(同友館)、「人手不足脱却のための組織改革」(経営書院)、「『プロセスリストラ』を活用した真の残業削減・生産性向上・人材育成実践の手法」(日本法令)等がある。
「人事制度(人事評価制度・賃金制度)セミナー・勉強会」の講師を160回以上努め、社長・経営層の延べ受講生1600名以上。
自らの約10名の従業員を雇用する組織の経営者。